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オリジナル/短編集/SWEET PAINシリーズ 第1話  page4



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 通されたリビングは、そこだけで綾人のアパートの部屋全てがすっぽりと入ってしまうくらい、広かった。
リビングの一切の家具や調度品は、全て新調されたものだった。
シンプルなデザインの家具だがどれも高額なものだ。
壁に掛かった絵画や、電気屋の店頭でしか見たことがない大きなテレビ、座った途端にお尻が沈み込む柔らかい大きなソファ。
1DKの小さなアパートで、家族肩を寄せ合って暮らしていた綾人にとっては、目に入る全てが想像を超えていた。
「うわぁ……! 金持ちの家だぁ……すごい…!」
 綾人の、子供らしい素直な感嘆の声に、加藤は思わずクスリと笑う。
この世の終わりとでもいうような、先程までのうちひしがれていた姿が嘘のように、綾人の顔は好奇心に満ちている。
「お腹がすきませんか? 昼から何も食べていないでしょう」
加藤に言われて初めて、学校の給食を食べたきり何も口にしていないことに気づく。
「サンドイッチか何か、簡単なものを作りましょうか」
「あ、いえ、いりません。……ごめんなさい」
散々泣いたあとなので胸がいっぱいで食欲が無い。
 遠慮はいりませんよ、と加藤は綾人に笑いかけると、脱いだ上着を備え付けられたカウンターテーブルの椅子の背にかけ、ワイシャツの両袖を捲り上げ、そして慣れた様子でキッチンに向かった。


 大きなマグカップを二つ手にした加藤が、キッチンから姿を見せた時、綾人は所在なげにソファに座っていた。
綾人の前のテーブルにカップをおいて、加藤はそのまま向かいのソファに腰を下ろした。
「食欲が無くても、これなら大丈夫でしょう?」
綾人の前に置かれた湯気の立つカップの中身は、ホットミルクだった。
 綾人はカップを両手で抱え込むようにして持つと、暖かなミルクに口を付けた。
「あ……おいしい、です、これ……」
一口、二口と口に含むと、身体がじんわりと温かくなっていく。
「蜂蜜入りですよ。リラックスできます」
そう答える加藤は、私は牛乳は苦手ですから、とコーヒーを用意していた。
 のど奥に暖かいものが流れ落ちるにつれて、ずっと緊張し続けていた綾人の心が少しずつほぐれていく。
綾人は半分ほど飲み終えたカップを膝上で両手で抱えて、時折真向かいに座る加藤の様子を盗み見た。
 加藤は瞼を閉じてコーヒーを飲んでいて、綾人の視線に気がついていないようだった。
年齢は二十代の後半か。 
父親より若い、としか綾人にはわからない。
父の着古した吊しのスーツとは明らかに違う、上質な品を着こなしている姿には一分の隙もない。
時間を気にしているのか、時折腕時計を覗く仕草もスマートで、綾人は、格好いいな、と素直に思う。
 アパートで見せた冷たい空気は、今はもう目の前の加藤からは感じられない。
玄関で手を握って慰めてくれた姿が本来の加藤なのか。
怖い人なのか、優しい人なのか、まだ綾人には計りかねていた。

 不意に、加藤と視線がぶつかった。
加藤は口の端をかすかに上げて微笑んだ。
無遠慮に見つめていたことを加藤に気づかれ、綾人は顔を赤らめて慌てて膝上に視線を落とした。
 足下に置いた鞄が目の端にはいる。
唯一、家を出るときに持ち出したのが、この学生鞄だった。
学校から戻ってすぐに連れ出されたので、着ているのも制服だ。
他には何一つ無い。
 あぁ……と、綾人はため息をもらした。
家から遠く離れた場所に連れてこられて、家にだって戻れないのに、学校にいけるわけがない。
家を出たことは仕方がないと頭で理解できても、心では未だに消化できないでいる。

加藤がキッチンにいる間、一人っきりで待っている時も、他に手段が無かったのかとついつい考えてしまっていた。
これからどうなるんだろう、と考えれば考えるほど不安で胸がいっぱいになる。
鼻の奥がつーんとして、また涙がこみ上げてきそうだった。
自分がこんなに泣き虫だなんて思わなかった、と綾人はグスっと鼻をすすった。


「綾人さん」
突然加藤に呼びかけられ、綾人は顔を上げた。
その途端、くらりと視界が揺れる。
あ、と思う間もなくソファの背に身体が沈んだ。
「……あぁ、なに? ……あれ?」
 綾人の身体の中で、得体の知れないじわじわとした熱いものが沸き上がり、身体の中を這い上がっていく。 
それは身体の中心から手指の先まで、ゆっくりと広がっていた。
落ち着こうと何度か大きく息をつくが、一向に収まる気配は無い。
それどころか、自分でもわかる位に脱力していく。
 身体がおかしい、と綾人が気づいた時には、彼の四肢は完全に力を無くしていた。
マグカップを抱える両手にも力が入らず、零さないようにかろうじて支えているのが精一杯だ。
その手も、じっとりと汗ばみ、自分の意志で動かす事が、なぜか出来ない。
綾人の身体に起きた震えがカップに伝わり、ミルクの表面に張った薄皮がふるふると揺れた。
 身体を起こすことが出来ず、ソファに背を力なく預けている綾人の隣に、静かに加藤が腰を下ろした。
綾人の手からマグカップを取り上げてテーブルに置く。
腕時計で時間を確かめると、真っ赤に上気した綾人の顔をのぞき込んだ。
「……あ、あの……力が、はい……らな……ひ……」
「大丈夫ですよ、少しの間です。お薬が切れたら元に戻ります」
「……くしゅり? ……なんれ……あァ……」
薬の影響でろれつが回らない。
 風邪薬を飲んだあとの引き込まれるような倦怠感が、綾人の全身を包んでいた。
飲み物に混ぜた薬が、綾人の身体の自由を奪っていた。
出来るだけ身体に負担がかからないよう、綾人の体格に合わせて処方された薬だった。
蜂蜜入りのホットミルクを用意したのは薬の味を誤魔化すためだ。
 初めて経験する身体の状態に、綾人の頭が混乱していた。
「おつらいでしょうが、あなたの為なんですよ」
薬を使うことは、主の命令だった。 
身体の自由を奪って、皮膚感覚を鋭敏にする――いわゆる催淫剤の一種だ。
「さぁ、そろそろ着替えましょうか」
そう言って加藤は綾人の制服のシャツのボタンを外し始めた。
「! なに…しゅる……」
「あなたは動けないでしょう?」
だから私が手伝います、と慣れた手つきで脱がせていく加藤の顔から感情が消えていた。
 加藤の指や剥ぎ取られていく衣類が、綾人の肌に触れるとその部分がじわじわと痺れる。
初めての感覚に綾人は戸惑い、自由のきかない自分の身体に恐怖を覚えた。
またたく間に、薄い桜色に染まった痩せた子供の素肌が、外気に晒された。
熱く火照った肌に、ひんやりとした空気がまつわりつく。
「あまり食べてないようですね。もう少し肉がついた方が良い」
加藤は、あばらが薄く浮いている上半身を眺め、すぅ、と、白い肌の上に指を這わせた。
加藤の指からもたらされるくすぐったい感覚に、綾人の口から熱い吐息が漏れる。
「あふ…あ、あァ」
と、息をつく度に大きく上下する裸の胸の上で、ちょこんとつきだした小さな乳首に加藤の指が一瞬触れた。
その途端、電気が走るような刺激が綾人の中を一気に走り抜ける。
「ひァあ! あ、あぁ!」
大きなあえぎ声を上げた綾人の身体が僅かにのけぞり、ソファにだらりと落ちた両手の指先がひくついた。
加藤の思っていた以上に、綾人の身体は薬の影響下にあった。
 加藤の指が綾人の下半身に降りて、ベルトを外しだした。
ズボンまで脱がされるとわかって、綾人の顔から血の気がひいていく。
加藤の手を止めようとあがくが、力の抜けた両手はぴくりとも持ち上がらない。
抗うことも出来ない綾人は、ろれつの回らない口で「やめて」と懇願するしかない。 
加藤の指先が肌に触れると、拒絶の言葉は意味をなさないただの音に変わってしまう。
 抵抗の出来ない身体は、簡単にズボンを脱がされ、靴下も足からはぎ取られた。
腰を抱え上げられてブリーフを引き下ろされた時には、綾人は抵抗の声すら上げられず、息を荒げて身体を支配する感覚に翻弄されるばかりだった。


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オリジナル/短編集/SWEET PAINシリーズ 第1話  page4

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