オリジナル/短編集/家族の肖像シリーズ 第1話 page1
ぼくに、新しいお兄ちゃんができた。
半年前に、新しいお義母 かあ さんと一緒にボクの家族になったんだ。
ぼくは一人っ子だから、お兄ちゃんができてすごくうれしい。
でも、お兄ちゃんは、ぼくよりうんと歳が上なのに、すごく泣き虫なんだ。
パパは、お兄ちゃんの事、カンジュセイが豊かな子、なんだって言ってたけど、
カンジュセイってなんのことかぼくわかんないし、
高校生のお兄さんなのに、泣き虫なんてやっぱりおかしいよね。
ぼくの部屋のお隣に、お兄ちゃんのお部屋がある。
時々、真夜中に、お隣から、お兄ちゃんの泣いてる声が聞こえるんだ。
最初は、にゃんこが鳴いてるんだと思ってた。
ほら、季節がかわるころ、にゃんこがみゃーみゃー鳴いてるでしょ。
あんな感じの鳴き声が、お隣から聞こえてくるんだ。
ぼくは、お兄ちゃんがこっそりにゃんこを飼ってるのかと思ってたんだ。
お兄ちゃんににゃんこ飼ってるの?ってきいたら、
お兄ちゃんはなんだかすごく慌てて、飼ってないよって。
それからちょっとの間、にゃんこの鳴き声は聞こえなくなったんだけど、
最近また鳴き声が聞こえるんだ。
お兄ちゃん、ぼくに嘘ついたのかなぁ……
うそつかれるのって、いやだよね。
新しいお兄ちゃんができただけでも、すごくうれしいのに、
新しいお義母さんのおなかの中には、ぼくの妹か弟がいるんだって。
でも、お義母さんは身体が弱くて、赤ちゃんが生まれるまで入院しているんだ。
そういえば、お義母さんが入院してからかな、お兄ちゃんが泣き虫になったの。
お義母さんと離ればなれになったから、さみいしいのかな、って思って、ぼく、昨日、こっそり、パパに話したの。
お兄ちゃんがかわいそう、って。
そしたら、パパは、
「子供はそんな心配しなくていい、パパに任せておけばいいんだよ」
って言って、お夕飯の時、お兄ちゃんに
「後で少し話そう。 部屋に行くからね」
って声をかけてくれたんだ。
お兄ちゃんは、えっ? て顔で、パパを見て、それから下をむいて、はいってお返事してた。
パパが、大丈夫っていってくれたから、もうお兄ちゃんは大丈夫。
ちゃんとお話ししてくれる。
すぐに、さみしくなんかなくなるよね。
ぼくはうれしくて、お兄ちゃんとパパにお話したかったんだけど、お兄ちゃんはお茶碗をテーブルにおいたまま、
なんだかぼんやりして声をかけてもちゃんとお返事してくれないし、パパはご飯を食べ終わって、
リビングのソファーでビール飲んでて、やっぱりぼくのお話に「ふうん、そうか」とかしかお返事してくれないし、
ぼくつまんなくなってお話しするの止めちゃった。
お夕飯が終わった後、パパは
「今日は、特別に2時間ゲームしていいよ」
ってぼくに言った。
いつもは一日1時間しかゲームしちゃだめって決まりがあるんだ。
約束をやぶると、パパはすごく怖い顔でおこるから、いっつも一番おもしろいところでゲーム止めなくちゃいけないの。
でも、今日は2時間もゲームしていいんだって!
ぼくがお夕飯のあと、テレビの前でゲームしてたら、パパとお兄ちゃんはいつのまにかお部屋から居なくなってた。
2時間ってあっという間に過ぎちゃう。やっぱり、一番おもしろいところで時間がきちゃった。
でも約束は2時間だもん。ぼくはゲームを止めて2階に上がったんだ。
ぼくがお部屋に戻る時に、お兄ちゃんのお部屋の前を通ったら、またにゃんこの鳴き声が聞こえたんだ。
いつもより、大きい鳴き声だった。
ぼく、びっくりして、こっそりお兄ちゃんのお部屋をのぞいたんだ。
ゆっくり音をたてないようにドアを、すこーし開いて、お部屋の中をみたら、お兄ちゃんとパパが、ベッドの上に座ってた。
ううん、違う。
お兄ちゃんがベッドに倒れてて、その後ろにパパが立ってたんだ。
ぼく、びっくりして、声が出そうだった。
だって、お兄ちゃんもパパも、お尻丸出しだったんだよ。
パパの足もとに、お兄ちゃんのジーパンと、パパのズボンが、くしゃくしゃになって転がってた。
お風呂じゃないのになんでパンツはいてないんだろう。
パパはお兄ちゃんの裸のお尻にぴったりおなかくっつけて、おしくらまんじゅうするときみたいに、ぐいぐい押しつけてた。
パパのお尻がくいっくいって動くと、にゃんこの鳴き声が聞こえて……。
ぼく、やっと、わかったんだ。
にゃんこだと思ってた真夜中の鳴き声は、お兄ちゃんの声だったんだって。
オリジナル/短編集/家族の肖像シリーズ 第1話 page1