幻想水●伝/本拠地にて〜グレミオの憂鬱
大きな作戦を明日に控えて、気持ちが高ぶって眠れない。
ランプを片手に本拠地の薄暗い廊下を私は歩いていた。
この地に本拠地を築いて仲間達も集まりはじめ、設備もずいぶんと整えられてきたとはいえ、もとは荒れた岩城だ。
石畳の通路は夜ともなるとランプの灯りなしではほんの数歩先も闇の中だ。
石壁をくりぬいた窓からは分厚い雲に覆われた月がほんのわずかに顔を覗かせているのが見て取れる。
月が顔をだすと、この冷たい石通路にわずかに灯りが差し込んでくる。そして月が雲に隠れるとまた再び闇の中だ。
私は窓枠に肘をついて目の前に広がる湖面を見つめた。
欠けた月の影が湖面に映っている。時折吹く風で水面が揺れ月影も揺らめいている。
・・・坊ちゃん・・
私は呪われた紋章を受け継いでしまった少年の事を思い浮かべていた。
長年仕えたマクドール将軍のひとり息子、今では私がお仕えするたった一人の主人だ。
年若い彼は紋章を受け継ぐと同時にそれまで彼を取り巻いていた全てのものを失った。
ふるさとも、肉親も、そして親友も。
しかし坊ちゃんは立ち止まり過去を振り返りはしなかった。
紋章を受け継ぐものとしての避けられない運命と向き合いながら、前へ前へと歩き続けている。
私はマクドール様のもとをはなれ、坊ちゃんのそばにいることを選んだ。
小さな頃から大切に育ててきた私の坊ちゃんが選んだ道がどこにむかっているのか、それがたとえ地獄に続くのだろうと、私は坊ちゃんの側で坊ちゃんをお守りし仕えていく。
けれど。
今度の作戦は大がかりなものといわれている。
負けるかもしれない、けれど、決して負けられない。
皆動揺を隠せずにいた。・・・・私もその一人だ。
大の大人が不安で眠ることもできずに夜半うろうろと岩城の中をうろついている。
坊ちゃんも、眠れぬ夜をすごしているのだろうか。解放軍の総大将としての責務におしつぶされてはいないだろうか。
私は懐に忍ばせている小さな携帯ボトルを取り出した。
対岸の町で仕入れた口当たりの甘い酒だ。
眠れぬならば月を眺めて一杯というのもいいだろうと、こうやってでてきたものの、月も雲にかくされていては、それもかなわない。
これならば、坊ちゃんの口にもあうだろう。
ふと、そうおもった。
高ぶる気持ちもこの酒で和らげることもできるだろう。
坊ちゃんは今や強大な帝国軍と戦う解放軍の総大将なのだ。酒の力を借りてでもゆっくりと休息をとって、明日の作戦に備えていただかなくてはならない。
なにより、私は坊ちゃんの顔がみたかった。理由など本当はどうでも良かった。
坊ちゃんと寝酒を酌み交わして、たあいもないことを話し、いつものようにすごせば、私も今夜はゆっくりと眠ることができるだろう。
私は坊ちゃんの部屋へ向かった。
坊ちゃんの部屋は岩城の西にある。
解放軍に加わった者達の中には腕のいい職人が多数いる。
彼らが腕をふるって坊ちゃんの部屋は作られた。
岩肌だった壁面も簡素ながらも塗装され、床には女達が織ったカーペットがひかれている。家具職人の男が腕をふるった円卓が部屋の中央におかれている以外の調度品は私たち幹部や他の兵たちの宿舎と変わらない。
私は坊ちゃんの部屋の扉の前にたった。
ノックしようとして思いとどまった。
もしかしたら眠っているかもしれない。
私のノックのせいで、その眠りをさまたげるのは、どうかとおもったのだ。
そっとのぞいて、めざめていれば、酒をすすめればよし、そうでなければ、私一人屋上にでも上がってと月を肴に飲めばいい。
私はそっと扉のノブをまわした。
わずかに開いた扉の隙間から中をうかがう。
部屋の中は意外に明るかった。
やはり坊ちゃんも眠れずにおきているのだろうか、と思ったとたん私の目にとんでもない光景が飛び込んできた。
それが力強い筋肉に覆われた尻だと気づくのに何秒かかっただろう。
円卓に置かれたいくつかのランプの灯りに照らされた浅黒い肌のそれは私の目の前で獰猛な動物のように動いている。
ざんばらな黒髪と上半身にまとわりついた着衣でその尻がヴィクトールのものだとわかった。
彼の尻が動くたびにこまぎれの悲鳴のようなかすかな声が聞こえてくる。
それは、恐怖のために発せられる悲鳴とは異なった甘い響きをもったものだった。
そう、それは男と女が身体を合わせたときに感極まった女があげる声だ。
なんてことだ、ヴィクトールは坊ちゃんの部屋で女を犯しているのか?
坊ちゃんはいったいどういうつもりなんだ、こんなことを許していいのか? いや、いいわけがないっ!
解放軍の幹部がこんな事では兵達に示しがつかないではないか!
まさか、坊ちゃんも一緒になってやっているのではないのか?
先行きの不安に押しつぶされて坊ちゃんは暴漢になりさがったのではないのか・・・。
私はそんなふうに坊ちゃんを育てた覚えはない・・・ッ
一瞬のうちに頭の中にそんなことが駆けめぐる。
私はヴィクトールの前の壁に立てかけられた鏡に気がついた。
それは魔術師ヘリオンの帰還魔法に使われる大鏡だった。
普段は地下に置かれ、偏屈なヘリオン婆さんがだれにもさわらせずに磨き上げている鏡にヴィクトールの姿が映っていた。
闘いになると大剣を掴み前線に飛び出していくそのときと同じ顔で、あわれな犠牲者を弄んでいるのだ。
普段からがさつで、よくいえばおおらかな性格がなぜか解放軍の女性陣にはうけていて、酒場にいけば周りに女達がむらがっていた。
男達もまた、兄貴肌のたよれるヤツと心酔するものがいて、ヴィクトールはこの解放軍の幹部連の中でなぜか一番人望があるのだ。
私も、彼の心に秘めた大願を知って以来、たとえ乱暴者でも、たとえスープを音をたてて飲むがさつ者でも、帝国軍と戦う同じ仲間として認めてきたのだ。
そしてなによりも。
坊ちゃんが彼を信頼している。
ふるさとを半ば狩られるように出奔した後、最初に仲間になった彼を坊ちゃんは何度もたより、時には解放軍全ての命運を預けることもあったのだ。
だが、こんなことは許されてはいけない。
こともあろうに坊ちゃんの部屋で女を犯すなどとは!!!
部屋に飛び込んでヴィクトールの暴挙を止めなくてはならない!
腕力では彼にかなうわけがないが、もし坊ちゃんまでがこの行為に加わっているのならば、なにがなんでも止めなくては!
この悪辣非道な行為をお諫めして、解放軍総大将の自覚を取り戻していただくのが、幼い頃から育てた私のつとめなのだ!
私が堅く決意を固めていると、鏡に映ったヴィクトールの鍛えられた両腕が彼の前でふせている腰をむんずと掴んでその上体を引き上げた。
ゴン!と音をたてて頭をハンマーで殴られたような、そんな衝撃が私を襲った。
坊ちゃん!
坊ちゃんだった!
鏡に映ったその顔は、私の坊ちゃんだったのだ!
私はよろよろと壁にしがみついた。
ヴィクトールは女を犯しているのではなく、坊ちゃんを襲っていたのだ!!!!
なんてことだなんということをどうしてこんなことになぜこんなことにッ!
ハンマーを打ち付ける、ゴン!ゴン!ゴン!という音の輪唱が頭の中で繰り返される。
私の坊ちゃんの尻にヴィクトールの肉棒が突き入れられているッ!
ヴィクトールは中腰で、犬のように四つん這いになった坊ちゃんの上に上体をかたむけて、鼻息荒く腰を使っている。
なんということだーーーーーーーーーーっっっっ!!!
思わず手にしていた携帯ボトルを床に取り落とした。
こつん、と石畳を打つ音がひびくが、室内の二人はそれにも気づかずに行為に没頭している。
『ヴィクトールさんと寝たら他の男とできなくなっちゃうんですって』
ふいに、おしゃべりな洗濯娘たちの下世話なうわさ話を思い出した。
坊ちゃんに食べて貰う野菜のスープの材料を岩城の敷地内に作られた畑に収穫にいったときのことだ。
『すごく大きくて、激しくて、ながもちなんですってよぉ』
そんなことを小鳥のようにさえずっている娘達に
『男はテクニックだろうよ。おれさまなら植木をあつかうように優しくしてやるぜぇ』
と庭師の男が指をいやらしく動かすそぶりでまぜっかえす。
『あらぁ、テクニックなんてさぁ、つっこんで、あっという間におわっちゃったら関係ないじゃないのさ』
娘達はころころと笑う。
私は野菜の入ったかごを思わず取り落としそうになった。
『へーへー、そうかいそうかい』
男はあけすけな娘達に軽くあしらわれて頭をかいた。
『そうそう、男の人はタフでないとねぇ』
そう決めつけるとその話題はおわり娘達は新しい染料でそめられた衣装の話題に興味を移していった。
男と女というものはそんなものではないのだ。
愛があってこそのものなのに!
なんと、なげかわしいことだろう。
この娘達にとっては男女の交わりも流行の衣装も同レベルなのだ。
が、まさにその「力」の限りをつくした行為が私の目の前で繰り広げられていた。
私の胴回りほどもあろうかという太い腕が、坊ちゃんの腰を掴んで激しく揺さぶっている。
その動きに合わせたように坊ちゃんの口からは、あぁ、あぁと女のような声が切れることなくもれていて、鏡には私の知らない坊ちゃんの顔がうつっていた。
少し苦しそうに眉をよせて、頬には涙が何筋も跡を作ってはいたが目元は紅く染まっていて、ヴィクトールから受けている行為を嫌がっているようには見えない。
ヴイクトールは、坊ちゃんの中に肉棒を突き入れたまま、坊ちゃんの両膝の後ろから腕を差し入れて身体を抱え上げるとそのまま床に座り込んだ。
鏡にはあぐらをかいたヴィクトールの姿と、その膝の上でまるで幼児におしっこをさせるように膝裏をすくいあげられ、大きく足を開いた格好の坊ちゃんがうつる。
坊ちゃんの上着の裾が腹の辺りまで大きくめくれ上がって、股間のものは大きく空を仰ぐように立ち上がり、びくびくと律動して自分の腹を打っている。
ああ・・・・坊ちゃんは、感じているのか・・・・。
私の坊ちゃんが尻を掘られてよがっている。
しかもあのヴィクトールにやられて、感じているのだ。
・・・・これが、初めてではないのだ。
私の胸が ずきん、と痛む。
一度職人サンスケの風呂で見たことのある、くやしいことに平常でも私よりひとまわり大きいあのヴィクトールのものを飲み込んで、苦痛より快感を感じているのだ。
…ふたりは、私の知らないところでいつもこんな事をしていたのか…
頭の中に響くいやな音が、胸の痛みを増幅させるようだ。たまらず胸元を拳でおさえつける。
いったいいつからこんな事を、ヴィクトールは、私の坊ちゃんにしていたのだ。
ヴィクトールなんかに!あんながさつものに坊ちゃんの尻を掘られるなんて!
ヴィクトールが坊ちゃんを抱えた腕に力を込めてその身体を上に持ち上げると、坊ちゃんの尻から肉棒がずぶずぶと姿を現す。
ぎりぎり亀頭まで抜き出し、今度は勢いをつけてその身体を引き戻すと尻の中に再び肉棒が飲み込まれる。
楽隊の奏でるマーチのような軽快なリズムで、ずっくずっくと音を立てて肉棒の出入りが続き、坊ちゃんのあえぐ声がどんどん大きく、早くなっていく。
ああ〜坊ちゃん、坊ちゃんッ。なんでそんな声を出すんですか? そんなに、やつのモノがいいんですか?
涎をたらして、女みたいな声をだして・・・・・そんなにいやらしい顔をして。
まるで場末の売春婦のようではないですか。
坊ちゃんの嬌態は若い頃に出会った女達のどれにも負けないくらいに、私の心をかき乱した。
胸元を掴んでいた私の手は自然に下半身に移動していく。ベルトをせわしなくはずしてズボンの中に両手を差し込む。
指先に触れた私の息子は熱く熱を持って下着の布地を窮屈そうに押し上げている。
私はヴィクトールに尻を自由にされている坊ちゃんを見て、欲情してしまったのだ。
私はドアの隙間から盗み見ながら大きく膨れ上がった欲望の証を擦り始める。
・・・・ああ、坊ちゃん、ヴィクトールなんかに尻を差し出すくらいならばいっそ私がッ・・・
私の頭の中では坊ちゃんを泣かせているあの肉棒が、私のこの手の中のものにすり替わっている。
私の膝の上で坊ちゃんが私のものを中に咥えたまま、身をよじっている。
私が腰を突き上げると坊ちゃんは可愛らしくあえいで、少し辛そうに私を見上げる。
そして、
『もっと、もっと動いて。グレミオ』
とせがむのだ。
ああ〜坊ちゃんッ。いいですよ、坊ちゃんの望むようにしましょう。
私は白昼夢の中で坊ちゃんを犯し、抱きしめながら、冷たい石畳にズボンをずらしたままの膝をついて自分の息子を擦り続ける。
だが現実では、ヴィクトールが坊ちゃんの耳朶をねぶっていた。
紅い舌が坊ちゃんの耳の中をなめ回す。
坊ちゃんの全身はひくひくと痙攣して、あらわになった肌は薄桃色に染まっている。
「もうでるッでちゃうぅッ」
と坊ちゃんのせっぱ詰まったような声が、私の耳に届く。
坊ちゃんの手は、自分の腹の上でこぼれ落ちる白い涎にまみれたそれを握りしめている。
すでに射精寸前まで高められているのだ。
ほんのちょっとの刺激でイってしまいそうだ。
それに気がついたヴィクトールは先ほどまでの激しい動きから一転して緩慢な動きに変え、坊ちゃんをじらし始める。
「ヴィク・・・・ッッなんでッ」
坊ちゃんが身をよじる。
「誘ったのはおまえだろうが。てめぇだけひとりで気をやって、はい、おわりってのはないだろう? 」
鏡の中のヴィクトールがにやりと口元をゆがめた。
「おれ様がイクまでだすなよ」
ヴィクトールはそういうと坊ちゃんを拘束していた腕をゆるめた。
坊ちゃんの足がぼとっと床におちた。
坊ちゃんは、あぅっと声を上げて前のめりに床に上体を倒す。
それでもまだ二人はつながったままだ。
ヴィクトールが腰を動かすのをやめてしまったために、坊ちゃんはその姿勢のまま腕を床について上半身をおこすと、自分から尻をヴィクトールに押しつけるように動かした。
最初はゆっくりと腰をおろして肉の楔を飲み込むと、次は楔の先端が顔を出すまで腰を引きあげる。
大きく息をつきながらその行為を数度繰り返したあと、今度は飲み込んだまま、尻をゆるゆると回し始めた。
だがそれくらいの刺激では坊ちゃんの身体は満足できないのだ・・・。
再び全身を大きく上下に動かしてヴィクトールの肉棒をぐちゅぐちゅと音を立てて受け入れ始める。
今度は先ほどよりも大きく激しく動いている。
ヴィクトールはただにやにやと薄笑いをうかべたまま、坊ちゃんのするにまかせている。
「あう、・・・うっ・はぁ」
坊ちゃんの声が私を誘う。
そう、いいですよ、坊ちゃん。そんなに私のものが美味しいんですね。
私の白昼夢の中で坊ちゃんは自分の尻を振り私のものを深くくわえ込む。
まるで動物がさかっているように派手な声を上げながら尻を振る。
「ヴィクぅ〜いいよぉ」
現実の坊ちゃんのヴィクトールを呼ぶ言葉も私の耳には私の名前にすり替わって聞こえる。
『漏れちゃうよぉ〜グレミオぉ〜早く、はやくイッってよぉ』
だめです、だめ。
甘えたってだめです。
坊ちゃん、私はまだ満足してません。
『ねぇっねぇッグレミオも一緒に動いてよぉ、イかせてぇ〜』
おねだりしたって、だめですよ、坊ちゃん。
じらして、じらして、もっとかわいい声を聞きたいですからね。
ずっといっしょにいて、こんな坊ちゃんを知らなかったなんて、私としたことが不覚でしたよ。
私はうっとりと鏡に映った坊ちゃんの表情を見つめる。
解放軍を率いる若き総大将の本当の顔だ。
子供だ子供だと思っていました。いつまでも私が側にいないとだめだなんて、私の思い上がりでしたね。
私は感慨に耽りながら、両手に余るほどに大きく膨れ上がり先走りを垂らしている息子を擦り続ける。
だが甘く淫靡な白昼夢は次の瞬間終わりを告げた。
「覗かれるってのも悪かないけどよ、そろそろ終わりだぜぇ、大将」
ヴィクトールは鏡に写った私に向かってそう言った。
下半身をむき出しにして自分のものを擦っている私の姿はいつの間にかしっかりと鏡に映り込んでいたのだ。
私は息子をにぎりしめたまま、凍り付いた。
いつから気づかれていたんだ。私の火照った頭がすーっと音を立てて冷めていく。
坊ちゃんはヴィクトールのその言葉に気づかないまま尻を動かし続けている。
イクことだけしか頭にない坊ちゃんに、私の存在は気づかれていないことだけが救いだった。
ヴィクトールは鏡ごしに私に向かってにやりと笑い片膝を立て、四つん這いの坊ちゃんの背中を片手で押さえ込むと猛然と腰を突き入れ始めた。
ずぼずぼぐちやぐちゃという音と坊ちゃんの口から漏れる獣のような叫びが部屋中に響き渡る。
「ヴィクっ ヴィクっいい〜きもちいいいいッ あんッあんあんッあんあんッ」
坊ちゃんが頭を床にこすりつけて叫ぶ。
ヴィクトールは、うむっ!と一声大きく呻ると、尻の筋肉をびくびくと動かして二度三度と腰を坊ちゃんにこすりつけた。
やっと、ヴィクトールがイったのだ。
坊ちゃんは空気の漏れるような音を長く細く吐き出した。
そして床に勢いよく白く粘りつく汁を吐き出し、ぐたりと身体を床に投げ出して失神してしまった。
射精し終わったヴィクトールは、濡れた肉棒を坊ちゃんの尻から抜くと、垂れる精液を坊ちゃんの上着の端でぬぐいとった。
そして手早く衣服をつけると硬直したままの私のいる入口へと近づいた。
下半身をさらしたみっともない私の姿をちらりとみやると、くっくっくっと喉奥で笑い、
「あいつがな、明日の作戦が気になって眠れねえからっつてな」
と床にたおれた坊ちゃんを顎で指し示す。
「まあ、一発抜きゃあ眠れるからって、ケツ振ってせがむからよぉ」
と指を卑猥な形にクロスさせて私の目の前でくいっと動かし、にやりと口元をゆがめて笑った。
私は最後の最後で打ちのめされた。坊ちゃんは自分から進んで抱かれたのだ・・・・・。
「あんだけ盛大にイっちまったら、明日はすっきりお目覚めだろうよ」
ヴィクトールは私の股間を大きな手のひらで、ぐっと握る。
私はその手をあわてて払いのけた。
「覗いて擦って、大事な坊ちゃんを抱いてる幻でもみてたか? ん? あいつが知ったらおもしれぇだろうな。」
ば、馬鹿なことを言うな、なんてやつだ。ヴィクトールの言葉に血の気がひく。
「せがまれて抱いたけどよ、総大将様のケツはしまりがいいぜぇ」
といった。そして片耳を指先で塞ぎ
「ひいひいわめいてうるせぇけどな」
と、思い出したように笑う。
ヴィクトールは私の横に転がった携帯ボトルを拾い上げると
「ガキだからなぁ。不安でたまんねぇんだぜ」
と、キャップをひねり酒をあおった。
そして、ほんの一瞬、とても真剣な目をして
「おれだってこんな夜は眠れねぇ……おまえ、保護者きどってんならもうちっとやつの事考えてやれよ」
と言った。
ヴィクトールは、私の肩をぽんとたたくと、
「こいつは覗きの駄賃にもらっとくぜ」
とボトルを持った手を振ると
「甘めぇ酒だ…まあ、おまえには似合ってるぜ」
と高らかに笑い声をあげながら私の横をすり抜けて立ち去っていった。
私は、がっくりと肩を落とした。
ヴィクトールの言うとおりだ。
まだ子供だと思う反面、一人前になるためにとあえて突き放した。
親兄弟のように接することは坊ちゃんの人間形成にとってよくないとおもったのだ。
実際に解放軍の総大将に祭り上げられてからの坊ちゃんの成長ぶりは目を見張るものがあった。
私がいつも側にいなくても、坊ちゃんの周りには大勢の仲間が集まっていた。
坊ちゃんは彼らとともに大人になっていったと、思っていたのだ。
そろそろ私の保護者の役割も終わりに近づいたのだと、これからは主従の関係をわきまえて接するべきなのだと思っていた矢先の、出来事だったのだ。…目の前の出来事は。
だが、実際は闘いの恐怖に震える子供だったのだ。
心の内に潜む恐怖と戦ってはいても一人でうち勝つことができない、まだ子供だったのだ。
その事に私は気づかなかった。私自身がそれと戦っていたのだから。
私は坊ちゃんの顔をみることで、守るべき人を心に刻み込むことで闘いの恐怖をうちけそうとしていた。
だが坊ちゃんは、彼の心の内に唯一気づいたヴィクトールにすがったのだ。
それがどのような形にしろ、坊ちゃんはやつと抱き合って恐怖を押さえ込むことができたのだろう。
私には坊ちゃんを受け入れるだけの何かが足りなかったのだ。
たから、坊ちゃんはヴィクトールを選んだのだ。
私は立ち上がり衣服の乱れを直すと室内に入った。
このまま、床に寝ていては風邪をひく。
ベッドにねかせなくては、と失神している坊ちゃんの傍らに近づいた。
はだけた尻の引き締まった双丘には、ヴィクトールのつけた手の跡が紅くのこっていて、奴の射精した名残が白く垂れている。
目を閉じた坊ちゃんの顔は、意識を失っていても先ほどの激しい性交渉の名残を残していて私の下半身を刺激する。
坊ちゃんのあえぐ声もまだ耳に残って、私は喉をならして唾を飲み込んだ。
私の内に、あんな感情が潜んでいたとは思わなかった。
心のそこで坊ちゃんを支配したいと思っていたのだ。
私は欲望を抑えることができずに再び下半身に手を伸ばす。
坊ちゃん、坊ちゃん、許してください。
今夜だけです、今夜、今だけ、私の思いを受け止めてください。
私は坊ちゃんの顔の上をまたいで膝をついた。
大きく膨れ上がったままの肉棒を外に引き出して、坊ちゃんの鼻先で擦った。
ヴィクトールのしたように坊ちゃんの身体を自由にする勇気は私にはなかった。
ただ、坊ちゃんを見つめて自分の思いを遂げるしかなかった。
かすかに開いた唇に先端をこすりつけると、それだけで背中を快感が走る。
濡れた唇の感触が直接亀頭に触れてめまいを起こしそうだ。
私はそれを感じながらはっ、はっ、と息を荒げて擦り続けた。
やがて、私の腰を鈍いしびれが走り、尻をふるわせて、坊ちゃんの顔に勢いよく射精した。
どろどろとした、私の欲望そのままの精液が気絶したままの坊ちゃんの頬や口に垂落ちる。
坊ちゃんの上から身体をずらし、床の上にしりもちをつくように座り込んだ。
壁に立てかけられた鏡に、荒く息をつく私の姿が映っている。
この鏡は魔法の鏡だ。
ヴィクトールと坊ちゃんの関係も私の欲望も全て写し取ったのだ。
魔術師ヘリオスの帰還魔法の恩恵にあずかるたびに、この鏡に自分の姿を映さなければならないのだ。
そのとき、私の姿はどんなに醜く写るのだろう。
耐えられなくて顔を覆った両手の指の間から涙がこぼれ落ちた。
私は後悔という影を引きずりながら坊ちゃんの部屋を後にした。
明日、我々はソニエール監獄へむかう。
軍師殿は難しい作戦になるといっていた。
だが、我々は勝たなくてはならない。
分厚い雲が月を完全におおいかくしている。
それはまるで先の見えない未来が我々の前に立ちふさがっているかのように、私には思えた。